職場における
「うつ病患者の発症の抑止からリワークまでのプロセスにおける支援体制モデル」
構築プロジェクト

 労働問題研究所が独自に行う調査研究として、職場における「うつ病患者の発症の抑止からリワークまでのプロセスにおける支援体制モデル」構築プロジェクトが、現在2年目に入って研究を進めております。
 この研究は、現在、本格調査の前第階として、比較法的視点をベースにした、自本における支援体制、医療のプロセスと職場復帰の関係等の背景的なシステムの全体像を把握するための制度及び実施メカニズムに関する調査、並びに労働者に対する十分な救済を提供する観点からの労働災害の認定上の問題(労災保険裁判例の総合的検討)を進めています。その他、いくつかの研究機関との共同研究の可能性について、現在協議中で、それらの情報については、公表できる段階において、その都度ホームページを通じてお知らせしたいと思っています。
 前者については、明治大学の小西教授のペーパーの一部が公表可能な段階になりましたので、掲載いたします。
 小西 啓文 「ドイツにおける障害者雇用政策のスケッチ(その1)」
 このペーパーは順次展開及び補充されていくもので、ホームページではその都度全面的に新たなペーパーに置き換えます。また後者の研究については、複数の専門病院に対する調査が行われており、報告原案もすでに完成していますが、病院側との公表に関する協議が整っていませんので、掲載はもう少し後になります。ご了解ください。
 この調査研究について、私ども研究グループは以下に掲載する調査研究の基本構図を作成しました。この構図もまた、調査研究の進展とともに修正が施され、より完全な文書に変化していきます。そうした点をご理解のうえ、ご参考にしてください。

〔研究の基本構図(案)〕
1:研究対象は次の3の部分に分ける。
@ 発症(及び雇用前に発症している者については症状が顕在化)から休職或いは治療開始まで
A 治療及びリハビリテーション終了まで
B 職場復帰或いは労働市場への参入(@との重複が含まれる)

これらの問題は次のポイントが重要と思われる。
 @については、(a)広義の労働安全衛生問題に関わる。すなわち、現在のケースローで対象とされていない分野と対象とされている分野に分けられる。
 前者については、職場における人事管理、とりわけ職務配置の慣行について、その現状を調査する必要がある。その上で改善点を探ることになる。
 後者については、(ア)ケースローが認定する状況を整理・分析し、(イ)責任の所在を明確にすると共に、(ウ)明示的な法的基準が必要な場合の慣行を確認する。また、補完的措置として、(エ)前者の解決を導入することを義務づける可能性について、検討する。これら検討は、本調査研究の目的からは狭いとみなされ得る。すなわち、ケースローはうつ病の労災保険或いは損害賠償対象者を職業病の発症、すなわち職業と労働慣行との因果関係を前提としているためである。本研究は、防止、復帰を中心とする支援体制つくりであるので、広く「職場」における安全衛生体制構築の観点からこれら問題を把握していく必要がある。
 (b)はAに関わる。Aは医療専門家の領域に属すると思われる。しかしながら、リハビリテーションについては必ずしも医療機関で行なう必要がない場合もあると思われる。(ア)その領域を確認する。にもかかわらず、その場合であっても、(イ)医療機関との密接な連携が必要であり、そのシステムをどのように確保すべきかが問題となろう。治療に続くリハビリテーションは職場復帰を実現するという重要な目標が存在しなければならない。従って(ウ)リハビリテーションと職業紹介機関との密接な連携が必要であり、そのシステムの現状を分析し、及び実行可能なシステム作りにチャレンジする。(エ)民間職業紹介期間の有効性について、それらがどのような役割を果たしているのかを整理・分析し、その有効性の範囲を確認する。以上から(オ)リハビリテーションと連動した労働市場参入のネットワークシステムの構築を検討する。具体的には、青森県との関係では、さくら病院(八戸市)、及び藤代健生病院(弘前市)の内グループサポート事業が(c)を含めて、調査対象として有益であるように思われる。さらにまた、医療法人内海慈仁会有馬病院心療内科リワーク「六甲」の調査結果との比較検討も可能。
 (c)はBに関係する。しかしながらAにおいて充分なケアがなされている場合には、(c)においてはその部分は不必要となろう。(c)における重要な部分というのは従って。Aと@の部分に重複する領域を扱うことになる。この領域の重要な役割は、再発の可能性が高い労働者に対する職場内のケア体制の確立であり、(ア)医療分野での監視及び継続的ケア、(イ)職場におけるケアの充実した体制の確立であると思われる。(ウ)とりわけ、新たな職場(同じ事業場或いは同じ使用者の別の事業)に参入する場合、企業内部のケア体制の確立が必要であると思われる。(エ)まったく別の使用者の職場に新規に雇用される場合、前者の場合にも必要であるが、とりわけ、外部の支援体制(使用者に対する啓蒙活動を含めて)との密接な連動体制をどのように確保するかが早急に検討されなければならない。
 この点で重要と考えられるのは、厚生労働省のリワーク指針である。詳細はさらに検討を要するが、概して、ケア体制を実効的に実施するシステムの構築に対する十分なアドバイスがなく、それを運用する人的、物的メカニズムにもほとんど触れられていない。どちらかと云えば、実体的基準を整理したものと理解される。本調査研究ではこれら指針をうまく利用して、実効的な運用を図るためのシステム及びメカニズムを構築することが中心となろう。

安全配慮義務に責任を負う者
 労働組合がある場合には、労働組合及び使用者で、両者の協力関係の確立が不可欠である。さらにまた、企業ベースの労働組合の形態は、職場毎に活動家を配置するが、その活動家に対するケアに関する教育訓練を行なうことが、発症に至る原因の多くを事前に除去する可能性がある。
労働組合がない場合、使用者が何等かの形態のケア体制(安全衛生委員会の中で、特別委員会の形で、対応することも含めて)を確立する(トップ経営と人事部門の垂直構造を基にした経営のCG組織及びメカニズムの整備)必要がある。
 これら責任を負う者は医療、公共職業安定機関及び外部NGO組織とのネットワークを形成するのが、実効的かつ包括的な責任を履行する可能性が高まることは明らかである。
 対象者、医療機関、行政機関、NPO団体との連携の在り方については、なお研究の余地がある。